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狂気の罠に堕ちる
――校内に隠された「日記」によって暴かれる過去、そして、人間の真実――
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’80s 少女まんがコラム
Vol.19 (2000.11.6発行)
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こんにちは。「’80少女まんがコラム」第19回目の配信です。
第19回目の配信分は、樹なつみ「マルチェロ物語」です。
今回の担当は私、堀川成美です。
■ 作品 :マルチェロ物語(ストーリア)
(1981〜1985)
■ 作者 : 樹なつみ
■ コミックス
花とゆめコミックス全8巻、白泉社文庫全4巻
■ 登場人物
マルチェロ・マルロウ(マルチェロ・レンツオーリ=女装のトップモデル)、イ
アン・ポール・デモルネ(フランス・オートクチュール界の巨匠)、イアン・シュ
ーデ(マルチェロの親友)、マリク・エーメ、ヴァレリィ・エドワーズ(アメリカ
の女優)、ガブリエル・ルパージュ(デモルネ秘書)、ジャン・テーネ(デモルネ
側近)、ギイ・バターユ(後にマルチェロのマネージャー)、パスカル・F・デモ
ルネ(デモルネ弟)、マダム・トゥラン(デモルネの師)、フランカ・レンツオー
リ(マルチェロ母)、シルヴァーナ・ラトスキー、ジュン・ホンダ、ジュール
フィリアン・ドニ、オディール・プレゲ、マリネッタ・トリッキオ、スーゴ、マ
ダム・ベロニカ他
■ あらすじ
女装の美少年モデル゛マルチェロ゛は、十五歳のイタリア人で、フランスオート
クチュール界の巨匠、イアン・ポール・デモルネに見出され、今やデモルネの秘
蔵ッ子として押しも押されもせぬ地位を確立していた。売れっ子として活躍しなが
らも、束縛だらけの生活にたえられず、デモルネの元を抜け出して旅行中の町の中
をうろつき、デザイナーの卵、イアン・シューデと出会う。
マルチェロの態度や言葉使いの悪さに、最初イアンは度肝を抜かれるが、イアン
の邪気のない、素直な人柄、また、マルチェロのモデルとしての素質を誉める彼に、
マルチェロは次第に心を開くようになる。(『マルチェロ物語』)
マルチェロは、その後、ファッション誌の記者に誘われて行った、数日後、無名
のデザイナー仲間と場末のディスコで行われる予定のファッションショー会場でイ
アンと再会、マルチェロはイアンがパリに出てきていて、小さなブティックのおか
かえデザイナーになっていることを知る。そこで、ディスコで行われるファッショ
ンショーは、何とか一人、本職のモデルを雇うことができたが、後はディスコのダ
ンサーたちに頼むことになっているということを知らされた。初めての友といえる
イアン、そして彼の才能に、服をみせるモデルの一人として手伝いたいと思うのだ
が、マルチェロはデモルネと一年の専属契約を結んでいて、イアンの手伝いはでき
ない。
ところが本番の直前になって、唯一のモデルが急性盲腸炎で倒れてしまう。若い
連中が自費でやるショーとだけあって、記者連中も多数会場に来ているのに、服を
「見せる」人間がいないと話にならない。みんなで困っているのを見かねて、とう
とうマルチェロはモデルの代役を申し出る。イアンは専属の彼が契約を破ってまで
の犠牲の上にショーを成り立たせるつもりはない、というと、自由だったノルマン
ディーという田舎の不良少年だった彼が、デモルネと出会ってすべてを手に入れた
つもりが、実は束縛だらけの毎日となってしまい、いつも、いつかどうにかしてそ
の束縛から逃れ反逆したいと思っていた、今回がいい機会だったからと、結局ステ
ージに立つことになる。
イアンの服を見せることには成功したが、仕事の途中で会場に立ち寄ったデモル
ネに、専属契約を破ったことを知られ、結果マルチェロはデモルネの怒りをかって
解雇されてしまう。そして、その会場でイアンはデモルネから賞賛されたため、注
目を集めるが、仲間からは妬みのためにつまはじきにされてしまう。解雇されたマ
ルチェロも、後悔に苛まれるが、やがてフリーモデルとしての道を模索するように
なり、マネージャーを申し出たギイと組んで、デモルネのショーのオーディション
を受けに行くことになる。(『黒い一角獣』)
■ コメント
今や「OZ」「花咲ける青少年」「八雲立つ」など、数多くの代表作を持つ樹なつ
みが、無名時代を経てやがて注目を集めるようになった、その作品が、この「マル
チェロ・ストーリア」である。新人でなければ、長編ものとして一気にかけぬけた
かもしれないほど、細部に設定が施されているこの作品は、当初、シリーズものの
ような様相を呈して始まった。そして、それまでのすべての短編で描いてきたキャ
ラクター設定を集約し、大きく展開したのが、樹にとっても初の長期連載となった、
マリクとのストーリーであった。
マリクとのストーリーが終了し、マルチェロ本編が書き終わっても、外伝という
形で三作(コミックスにして二冊分)書かれているから、樹がどれだけこの作品の
中で作ったキャラクターに愛着を抱き、設定を組んでいたかが測り知れるというも
のである。
ちなみに、こうして短編シリーズのようにしてスタートし、やがて長編を描くよ
うになる、という経緯は、「LaLa」誌上では特に珍しいわけでもなく、清水玲
子もジャックとエレナのシリーズで、やまざき貴子がムシシリーズで、長編を書く
ように到っている。いずれも、押しも押されぬ人気作家になった人達である。
かつて人に勧める時、コミックスで4巻から6巻に相当する長編部のマリクのス
トーリーを読めば、それでOKだといっていた。もちろん、それまでのエピソード
がなくても十分読める。が、それまでのエピソードを読んでいたほうが、キャラク
ターの語る内容に深みが出て、理解もよい。
考えてみれば、それまでのストーリーは、キャラクターそれぞれの個性を描きわ
ける段階であり、設定の部分なのだから、本当は見逃してはならないのだ。
マリクというキャラクターのみが、ここで初めて出てくるが、彼女がモデルとし
て出世するのには、デモルネの弟パスカルとのエピソード(「空色のパスカル」)
は欠かせないし、「事件」では、それまでの脇人物たち、たとえば、親友イアンと
のかかわり(「マルチェロ物語」「黒い一角獣」他)や、以前マルチェロに恋焦が
れた女優ヴァレリィとの、その恋のエピソード(「アメリカンガール」)、デモル
ネの過去(「遥か青き時代より」)、マネージャー・ギイの野望(「黒い一角獣」
他)、そして、マルチェロの人を愛せない心のいきさつ(「マンマ・ミーヤ」他)
を知っておけば、話はぐんと広がっていき、ストーリーが個々のキャラクターのも
つ心理や背景によって、絡まり、動いていったことが、納得できて面白い。
母親が、男にだらしなく、果てに男と無理心中してしまったがために、17になっ
ても人を愛するということができなかったマルチェロ、それでも人をひきつけてや
まず、またそれゆえに悲劇を生んでしまう。
幼くして母をなくし、親戚の元に身を寄せ、そこを逃げだし、貧しさからの束縛
から逃れるために始まった彼自身の放ろうは、今度は自由になるために求めた豊さ
と、業界の軋轢に束縛され、そして、愛に束縛されようとした。
“相手を思うが故に、傷つけるのが恐い。”
そんな愛による心の束縛で、無理心中した母親からの呪縛から逃れるように、ま
た、彼自身、初めて愛した人からさえ去ることを選ぶ。
何かから自由になろうとし、結局、何からも自由になれない。
だから、「いつか終わる」と思いながら、人とも、場所とも、係わっている。
ストーリーが終わった後のマルチェロを、誰も知らない。ただ、樹は、人と深い
かかわりを持たず、求めながら、結局そこにはいつけなかった少年を、最後、「人
を愛する」という「成長」にまで達してから、まるでそこだけ切りとって駆け抜け
たように描いている。
この少年は、特別でありながら、今のどこにでもいる少年たちの、心の中に、静
かに潜んでいるようにさえも思える。
「初期」樹作品だけあって、絵はつたない。
絵は拙いが若さがある。私が樹を知った最初の作品は、この「マルチェロ」だっ
たが、当時は今の絵を知らないから、その拙ささえ気にならず、熱さと勢いに、全
編を通して引きつけられた。
「特別な」という設定は確かにあるけれども、超能力も、王様も、アンドロイド
も格闘シーンも、つまり、「なんかすげえぞ」というスケールのでかさが設定には
ない。
だから、人としてより身近で、そして、今ふりかえって、彼女の持つ独特の人を
引きつける「情熱」は、この頃から芽吹き、より熱かったのだと感心する
個人的には「マルチェロ」が全く登場しない外伝「天使になる日」が一番好きで
ある。コミックスにすれば一冊に納まってしまいそうな長さであるけれども、秀一
の作といってよいと私は思う。
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編集後記
「マルチェロ」の次回作「朱鷺色三角形」の「蛍たちはわらう」の設定は、「獄
門島」だと思うのは私だけでしょうか。好きなのかもしれませんね、樹さん。金田
一シリーズ。
今萩尾都望の「残酷な神が支配する」を読んでいますが面白いですね〜。ちょう
ど、書籍でも「騙しや盗みを悪くないと思っている人たち」(S.E.セイムナウ・
講談社)を読んでいて、臨床例がたくさん出てくるので、同時進行で読んでいて混
乱しかかってます。
で、そういう時に「マルチェロ」を読んでいると、マルチェロの母の記憶ゆえに
人を愛せず、母の記憶ゆえに、愛した人から去ってしまうというところがとても目
につきます。
その時々の環境で、読むものの印象もずいぶんかわるもの、作品に深みがなけれ
ばなせない技かもしれませんね。
さて、このメールマガジン配信も次回で20号を迎え、ホームページの方も来月
2周年を迎えます。いつもいつまで続くのか、とギリギリのところで闘いながら書
いています。とりあえず、3ヶ月、そういう目算で、これからも続いていくことで
しょう。よろしくおつきあいください。
では次回また。
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発行元:インターネットホームページ「空中回廊」
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発行&責任編集者:堀川成美
Vol.19執筆担当者:堀川成美
発行日:2000年11月6日
Copyright(C) 2000- All rights reserved.
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